2003/11/08

永平寺での修行を振り返って

 大学を卒業してからサラリーマンをしていた私ですが、二年ほど前に佛縁をいただき出家させていただきました。 実家のある青森県を出発点として東北〜関東〜北陸とお寺巡りをし、辿り着いたのが現在の師寮寺(シリョウジ)である永源寺(兵庫県養父市)でした。 永源寺には西有禅師様と深く関係のある寺です。 西有禅師様は同じ青森県出身ということもあり、私は以前より知っていました。 又、深く尊敬していましたので、縁のある寺で出家させていただいたことに深く感謝しています。

 永平寺を初めて参拝したのは二年前の報恩摂心会(ホウオンセッシンエ)の時です。 師匠探しをしている最中、ある御寺院様に「出家する前に先ず本山へ行って、修行とはどのようなことか坐禅体験をしてみてはどうだ」と、助言されたのがきっかけです。 その以前坐禅をしたことがなかったので、初めての摂心は厳しいものでした。 「足が痛い、痛い」と嘆きながら、一週間を過ごしたことを今でも覚えています。 参禅係に応量器展鉢(オウリョウキテンパツ)を教えていただきましたが、食事をすることも一つの修行なのだとこの時に知りました。

 その永平寺での安居を師匠は許して下さいました。 様々な理由で永平寺に安居(アンゴ)したくともできない人がいる中、ここで修行させていただいていることに感謝しています。 しかし、上山当初(平成十五年二月二十一日上山)は、辛い日々が続きました。 永平寺の食事に慣れず脚気になり、厳しい寒さの為に手足は荒れました。 緊張のため130名の同安居に声をかけることができず、会話の輪の中に入ることができませんでした。 毎日の公務はしどろもどろの連続で、多くのミスを重ねました。 そして皆様に迷惑ばかりかけていました。 しかし、そのような毎日を耐えながら過ごすにつれ、徐々にお山の雰囲気に馴染んできました。 脚気が治り、気候が暖かくなるにつれ手足の荒れもよくなりました。 初対面の同安居とも自然な会話を交わせるようにもなりました。 自ずと公務のミスはなくなりました。 半年経った今、先輩の古参和尚さんや役寮様からも話かけられるようになり、そのような時は嬉しくなります。 永平寺の人は良い人ばかりで暫到期間を乗り越えることができたのも皆様の助けがあったからですし、縁あって一緒に安居することができた皆様との出会いを大切にしてゆきたいと思います。

 永平寺では今まで、衆寮(しゅりょう)、大庫院(だいくいん)、祠堂殿(しどうでん)で修行させていただきました。 衆寮では飯台時の浄人進退や巡香の仕方など、僧堂内での進退やお山の鳴り物について勉強させていただきました。 特に大梵鐘を撞かせていただいた時のことは今でも心に残っています。

 永平寺の台所といわれる大庫院でもいろいろなことを学びました。 胡麻豆腐など永平寺の精進料理には興味があったので、大庫院へ転役できたことは幸運だったと思います。 特に印象に残っているのはお授戒時の弁当作りです。 毎日修行僧への食事を作ってはいたものの、この時期ばかりは随喜寺院、戒弟を含め毎日十斗の米を炊き続け疲れ果ててしまいました。 しかし、通常とは違うメニューを料理することができ、そのお陰で永平寺の料理をより深く学ぶことができました。 又、典座老師の料理を試食させていただいたり、料理についてのアドバイスをいただいたことは良い経験となりました。 大庫院での修行の後半には瑞世上膳(瑞世師が食べるお膳)の調理にも携わることができました。 飯頭(ハンジュウ)さんや貼庫(テック)さんに味の確認をしていただきながら完成させた時にはなんともいえない達成感を味わうことができました。 このことは自分の中で自信となりました。

 祠堂殿に転役できたことも幸運だったと思います。 祈祷など経験することができなかったいろいろな法要に随喜させていただき、お経を覚えると同時に法要進退を学ぶことができました。 今後とも各寮舎との御縁を無駄にしないようできる限り吸収するつもりです。

 今年の白山登山は複雑な気持ちになりました。 なぜなら私は学生時代に毎年夏に、一ヶ月程度白山室堂に住み込みでアルバイトをしていたからです。 室堂の掃除や登山者への食事の給仕、後片付け、さらにヘリコプターでの荷物輸送ができない時は30s程度の荷物をかついで室堂へ運んだりもしました。 その私が今度は逆の立場で白山に登るとは・・・ これも何かの御縁なのでしょうか? 昔のアルバイト仲間と偶然にも室堂で出くわした時は懐かしさと共に少し妙な気持ちになりました。

 来年春に私は宮津市にある智源寺という寺へ行きます。 師匠が十月二十九日に晋山式を修行しましたので、お手伝いをさせていただきながら安居する為です。 本山から地方僧堂へと場所は変わりますが、今までと同様、毎日少しずつ修行が積み重なるように頑張っていきたいと思います。 いろいろな人や佛様の助けや佛縁をいただいて現在の私があるので、その思いに報いるためにも精進してゆこうと思います。

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